<認知症の基礎知識> その2:症状を中心に 医師 岩井 雅之 |
認知症の症状は中心となる症状と、それに伴って起こる周辺の症状に分けられます。中心となる症状とは「記憶障害」や「判断力の低下」などで、必ずみられる症状です。周辺の症状は人によって差があり、怒りっぽくなったり、不安になったり、異常な行動がみられたりすることがあります。
7. 中心となる症状
■記憶障害
直近のことを忘れてしまう。同じことを繰り返す。
■見当識障害
今がいつなのか、ここはどこなのか、わからなくなる状態。
■判断力の低下
寒くても薄着のまま外に出る。真夏でもセーターを着ている。
8. 周辺の症状
■妄想
しまい忘れたり、置き忘れたりした財布や通帳を誰かが盗んだ、自分に嫌がらせをするために隠したという「もの盗られ妄想」の形をとることが多く、このような妄想は、最も身近な家族が対象になることが多い。
■幻覚
認知症では幻聴よりも幻視が多い。「ほら、そこに子供たちが来ているじゃないか。」「今、男の人たちが何人か入ってきたのよ」などといったことがしばしば見られることもあります。
■不安
自分がアルツハイマー病であるという完全な病識を持つことはないが、今までできたことができなくなる、今までよりもの忘れがひどくなってきているという病感があることは珍しくなく、不安や焦燥などの症状が出現します。また、不安や焦燥に対して防衛的な反応として妄想がみられることもあります。
■依存
不安や焦燥のために、逆に依存的な傾向が強まることがあります。一時間でも一人になると落ち着かなくなり、常に家族の後ろをついて回るといった行動があらわれることがあります。
■徘徊
認知症の初期には、新たに通い始めた所への道順を覚えられない程度ですが、認知症の進行に伴い、自分の家への道など熟知しているはずの場所で迷い、行方不明になったりします。重症になると、全く無目的であったり、常同的な歩行としか思えない徘徊が多くなります。アルツハイマー病に多く、脳血管障害による認知症では多くはありません。
■攻撃的行動
特に、行動を注意・制止する時や、着衣や入浴の介助の際におきやすい。型にはめようとすることで不満が爆発するということが少なくない。また、幻覚や妄想から二次的に生じる場合もあります。
■睡眠障害
認知症の進行とともに、夜間の不眠、日中のうたた寝が増加する傾向にあります。
■介護への抵抗
理由はわかりませんが、認知症の高齢者の多くは入浴を嫌がるようになります。「明日はいる」「風邪をひいている」などと口実をつけ、介護に抵抗したり、衣服の着脱が苦手であること、浴室の床でころぶかもしれないことなど、運動機能や条件反射が鈍くなっているための不安、水への潜在的な恐怖感などから生じると考えられます。
■異食・過食
食事をしても「お腹がすいた」と訴える過食がみられたり、食べられないものを口に入れる、異食がみられることがあります。口に入れるのは、ティッシュペーパー、石けん、オムツの中身までさまざまです。
■抑うつ状態
意欲の低下(何もしたくなくなる)や、思考の障害(思考が遅くなる)といった、うつ病と似た症状があらわれることがあります。うつ病では、「気分や感情の障害(悲しさや寂しさ、自責感といったもの)を訴えることがあるが、認知症では訴えることは少ないです。
9. 間違われやすい病気
認知症といっても、原因となる病気はたくさんあります。また、その症状も多様です。認知症と異なる病気であっても、同じような症状を示すことがあります。このような病気のなかで特に間違われやすいのが「せん妄」と「うつ病」です。「せん妄」や「うつ病」は適切な治療を行うことで症状は改善するので、これらと認知症の区別は大変重要です。
『せん妄』と『認知症』の違い
せん妄は、急性の脳障害に伴っておこる軽い意識障害で、判断力や理解力が低下し、しばしば幻覚や妄想があらわれて興奮状態になります。せん妄と認知症の違いは、せん妄の患者さんは一日の中で症状の変化が激しく、「しっかりしている時期」と「そうでない時期」があることです。アルツハイマー病はせん妄を併うことがあります。
『うつ病』と『アルツハイマー病』の違い
うつ病は、気分が落ち込んでいくゆううつな状態、やる気が出ない、思考が遅くなるといった症状が続く病気です。うつ病と認知症の大きな違いは、うつ病では「悲しさや寂しさ、自責感など(気分や感情の障害)を訴える」ことです。
次回は、認知症の診断と治療についてのお話です。